90年代は、漆喰ってなんですか、という質問が多かったが、漆喰とは白い壁だろうということは、最近ではもうある程度常識になりつつある。壁や天井に対して、好きアラバ漆喰を塗り込めるというこの20数年のかたわら、歴史上あまり例のない場所にまで漆喰を塗るという実験的取り組みも並行して行ってきた。その一つが、漆喰カウンターである。天板である。普通の机、というよりは、作り付け家具の天板であったり、壁から片持ちになった天板であったり、逆に窪んだ天板であったり、土や漆喰を室内に塗っていくとその室のどこかに、おおむね天板が必要となり、ならば同じ素材で塗りこめてこしらえましょう、え、できるんですか、ではお願いします、となる。もちろん、壁天井に塗る漆喰と、天板として機能する漆喰は、基材はかわらないが混和材が異なる。当然ながら天板としての硬度、強度が必要になるから樹脂を用いる。が、デザインとしては、壁天井と同一の素材が天板になっている、という見え方を、意識して施してきた。
最初は楽只庵2002に始まった。(実際は、もう少し前、石山研究室として設計した宮崎の現代っ子ミュージアムで、現地の左官屋さんと徹夜しながらカウンターを磨いたことまで遡ることもできる。)ここから多くの住宅や店舗に、飛び火、飛び石灰していった。ここで実際に見ていただくと、自分の建築にも欲しい、と十中八九、受注に至った。(名付けてジュチューハックジュチュウ)おそらく理由は、技術的にも手間的にもそれなりに必要、つまりお金も時間もかかる工事箇所になるが、施工面積が大きくないので、そのグレード感のわりには家全体のコストに響かない、というのがある。
最近では、モールテックスなどのセメント系のカウンター素材が、ある意味世界規模で普及しているから、左官技術でのカウンターの存在は、驚かない世の中になってきているのかもしれない。でも、漆喰という素材とセメントという素材の違いが、出てくる。カウンターは、手で触ることもよくある場所であるから、手触りが違う。柔らかい。
各プロジェクトに「ジュチューハック」施してきたから、事例は少なからず。以下にその一部を写真掲載します。